出版の企画書をつくるとき、必要となるのが「類書」です。
企画書は「その本の完成イメージ」を相手にうまく抱かせることが目的です。
そのいちばん手っ取り早くて効果的な方法が、「類書を挙げる」という方法。「企画の完成イメージとして、いちばん近いのはこの本です」と具体的に示してあげるわけですね。
ただ、たいていの人は類書選びが下手です。編集者にとって、あまり参考にならない類書の選び方をしています。
よくあるのが
とりあえず同じジャンルの本をAmazonで探して、選びました
っていうパターン。
これはダメですね。
「類書を選ぶ」といっても、本当にテーマや内容が近い本を選べばいいわけではありません。
言葉通りに「類書(いちばん似ている本)」を選んではダメなのです。大事なのはむしろ「こういう本にしたい」という意思です。
類書は「売れている本」から選びなさい
じゃあ、類書でどういう意思を示せばいいのか。
ひとつ大事なのは、「類書は売れている本を選ぶ」という鉄則です。
たまに、一般の方からもらう企画書が挙げている類書で、ぜんぜん売れていないものが並んでいることがあります。しかし、出版社は営利団体なので、つくった本が売れないと困ります。
売れていない本を類書としてあげるのは
この企画が実現しても、あまり売れない可能性が高いですよ
とアピールしているのと同じ。
そんな企画に食いつく編集者はまずいません(もちろん、世の中には「売れなくても世に出す価値がある本」というのも存在するし、それを大事にしている編集者もいます)。
じゃあ、「売れている本なら何でもいいのか」というと、そうでもないです。
売れている本は大きく2つに分けられます。
「著者の力で売れている本」と「コンテンツの力で売れている本」です。
たとえばホリエモンこと堀江貴文さんとか、メンタリストDaiGoさんの本はだいたい出せば売れますが、これは明らかに「著者の力」によって売れる本です。
同じ内容を別の人が書いても、同じように売れるわけではありません。「その人が書いたからこそ価値がある」というたぐいの本なんですね。
だいたい、自分で出版企画書をつくって出版社に持ち込もうと考えている人は、ホリエモンさんとかDaiGoさんほどの影響力を持っていないことが多いと思います(もしもSNSのフォロワーが何十万にもいる人だったら、おそらく編集者のほうから「本を出しませんか?」と声がかかるはずです)。
となると、「著者の力で売れている本」を類書に挙げても、それは企画書を読む編集者からすれば、全然参考にならないわけですね。
一方、世の中には、「べつに著者がマスメディアに露出していたり、すごいインフルエンサーなわけではないけど、じつはかなり売れている本」というのが存在します。
そういう本の場合、コンテンツやテーマそのものに興味を持たれて売れていると考えられるわけですから、あなたに影響力がなくてもワンチャンスあるわけです。つまり、類書を選ぶなら「コンテンツの力で売れている本を選ぶ」のがいいのです。
Amazonだけで類書を調べてはダメ
さて、ここで問題があります。
「どの本が売れているのか」を、どうやって調べればいいのかという問題です。
一般の方でよくあるのは
Amazonでたくさんレビューがついていたから、この本は売れていると思いました!
という考え方ですね。
もちろん、Amazonレビューは少ないより多いほうがいいですが、じつはレビュー数と売れ行きは必ずしも一致しません。
レビュー数は多いけど、じつは意外とリアル書店では売れていないので発行部数自体はそうでもないケースはよくあります。
逆に、Amazonのレビュー数は少ないけど、じつはリアル書店ではしっかり売れていて、なにげに発行部数が5万部とか10万分を超えている本も珍しくありません。
また、最近は少なくなってきましたが、著者が知り合いの人に頼んだりして、組織票ならぬ「組織レビュー」を書いてもらい、売れている感じを演出することもあります。要するに
Amazonランキングも、あまり信用しすぎてはいけません。
ってことです。
総合100位以内に入るなら間違いなく「売れている本」だと判断できますが、Amazonランキングは高頻度で順位が入れ替わるので、「たまたま自分が見たタイミングで順位が高かっただけ」な可能性もあるからです。
これも、著者が知り合いに協力を依頼して、同じタイミングで一気に購入してもらったりすれば、瞬間風速的にランキングを押し上げることは十分可能です。
これはぜひ覚えておいてほしいのですが、類書を探すときにAmazonだけで調べるのはやめましょう。
もちろん、いまはAmazonで本を買う人もかなり増えているので無視はできませんが、やはり全体で見るとリアル書店で買ってくれる人のほうが多いのは事実です。
なので、類書を探すときは面倒くさがらず、ちゃんと本屋さんに行ってください。
どこの書店にリサーチに行くべきか?
本屋さんにリサーチに行く場合にもいくつかコツがあります。
まず、どこの書店に行くかです。
できるだけ大きな書店に行きましょう。町中の小さな本屋さんではダメです。
駅前にあったり、商業施設に入っている大型書店に行ってください。なぜなら、そういう書店のほうが来客数も売上も大きいからです。
また、大型書店はきちんと棚の新陳代謝が行われています。つまり、売れない本はすぐに返品されて、売れ筋の本はしっかり揃っているということです。
町中の小さい書店だと、いつから置きっぱなしになっているのかよくわからないマイナーな本が普通に並んでいたりするので、参考になりません。
ただし、駅ナカにある小さい書店は例外です。駅ナカの本屋さんは参考になります。
駅ナカの書店は坪数こそ小さいですが、往来が激しくて来客数が多いので、しっかり棚の新陳代謝が行われているからです。
むしろ、店が狭いので、売れていない本を置く余裕はありません。発売してから半年くらい経っているのに駅ナカ書店に置かれている本があったとしたら、それはしっかり売れている可能性が高いです。
なお、地方に住んでいる人はあまり大型書店の選択肢がないかもしれませんが、東京近郊に住んでいる人は、「どのエリアの大型書店をチェックするか」も大事なポイントになります。
たとえば、東京駅の目の前にある「丸善丸の内本店」と、渋谷スクランブル交差点の前にある「SHIBUYA TSUTAYA」では、並んでいる本の種類がぜんぜん違います。来客する人の属性が違うからです。
類書を探す場合は、自分が読んでほしい読者の人が行きそうな書店にリサーチに行く必要があります。
都内の主要な書店はそのうちリストアップしてまたご紹介しましょう。
まずは平積みになっている本をチェック!
さて、大型書店に行ったら、当然ながら自分が出したい本が置かれそうなコーナーに行きます。
自己啓発書を出したいなら自己啓発書の棚、ダイエット本を出したいならダイエット本のコーナーですね。
まずチェックするべきは、平積みされている本です。
平積みというのは、本の表紙がしっかり見える陳列方法です。
平積みになっているのは、そのコーナーに置ける「新刊」「話題の本」「ロングセラー」です。
平積みになっている本をチェックすれば、そのカテゴリーにおけるおおまかなトレンドがつかめます。
気になる本はすかさず「奥付」で刷り回数を見る
自分の本に一番近そうな本があったら、手にとって「奥付(おくづけ)」をチェックしましょう。
奥付というのは、本の一番最後のページある情報です。
こんなやつですね。
ここには刷り部数が書かれています。
上の画像でいうと、この本は23刷までしているということです。23回も増刷がかかったということです。これはかなり売れている証です。
初版以外なにも書かれていない本は、一度も増刷していない……つまり売れていないと判断できます(もちろん、発売したばかりの本は別です)。
正確なデータはありませんが、一般的に、書籍全体で初版から増刷(2刷)が達成できる本は全体の1~2割程度です。一度でも増刷がかかるのは、それだけで、すごいことなのです。
3刷になると、さらにそのハードルは上がります。私の感覚では、2刷になった本のうち、3刷になるのは3~4割くらいでしょうか。
最初に勢いがあれば2刷できる本は多いですが、3刷はひとつの大きな壁です。一度増刷して市場在庫が増えたけれど、それでも売れ行きが衰えないから、出版社は3刷を決定するわけです。つまり、売れ方は本物であると判断できます。
なので、最低限「3刷以上の本」を選ぶと覚えておきましょう。
余談ですが、いまはビジネス書の場合、初版は5,000部前後からスタートします。増刷は2,000~3,000部にすることが多いです。ということは、3刷している本は発行部数がだいたい1万部くらいだと判断できます。
なお、奥付の場所は出版社によって異なります。
巻末に自社広告(自分の会社の本の宣伝ページ)が入っている場合は、自社広告ページの直前に奥付を置くことが多いです。
また、出版社によっては本文ではなく、カバーの隅っこの方に奥付を書いていることもあります。
ただ、奥付は絶対にどこかにありますから、探してください。
なお、理想をいえば、類書はすべて購入して手元に置いておくのがベストですが、ハードルが高い場合はタイトルをメモしておきましょう。
このとき、スマホで写真を取るのはやめてください。書店に並んでいる本の中身を撮影する不届き者もいるので、書店員さんに怒られます。
せっかく書店まで行って本を見るなら、パラパラと売れている本の中身もチェックしておきたいものです。
文字は縦書きか、横書きか、何ページか、イラストや図はどのくらい使っているか、文字の大きさは大きいか、小さいか、「だ・である調」か「です・ます調」か……
このあたりは企画書を作るだけならあまり必要ない情報ですが、いざ原稿を作ったりするときには役立ちます。
コメント